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和歌山地方裁判所 昭和56年(ワ)327号 判決 1983年2月22日

主文

一  被告は、原告に対し、金七〇七万四五二三円及び内金六四三万四五二三円に対する昭和五五年八月二〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は二分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、一二五四万九六一七円及び内金一一七四万九六一七円に対する昭和五五年八月一九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和五五年八月一九日午後六時頃、原動機付自転車(以下被害車両という。)を運転し、和歌山市有本六一〇番地先道路を東進中、後方から追い付いた被告の運転する大型貨物自動車(岐一一さ六九五三号、以下加害車両という。)が追越しざま自車左前バンバー付近を被害車両の右バツクミラーに接触させ、被害車両もろとも転倒させたため、第一二胸椎圧迫骨折、左上腕・右前腕及び頬部挫創、左拇指末節部挫傷、頭部打撲、骨盤挫傷等の傷害を受けた。

2  被告は、被害車両を追い越す場合は、接触による転倒等の事故の発生を未然に防止するため、側方に相当な距離を空けて追い越すべき注意義務があるのに、これを怠り、漫然と被害車両の直側近を追い越そうとした過失により、本件事故を惹起したもので、原告が本件事故により被つた損害を賠償すべき責任がある。

3  原告が本件事故により被つた損害は、次のとおりである。

(一) 治療費 六〇万九二三〇円

原告は、中村整形外科・外科病院において、昭和五五年八月一九日から昭和五六年三月一〇日まで二〇四日入院、同月一一日から同年七月三一日まで一一九日間通院して治療を受け、治療費六〇万九二三〇円を支払つた。

(二) 付添費 一五万九〇〇〇円

右入院期間中、昭和五五年八月一九日から同年一〇月一〇日まで五三日間、原告の次女美紀が付添つた。一日三〇〇〇円の割合による付添費

(三) 入院雑費 二〇万四〇〇〇円(右入院期間中、一日一〇〇〇円の割合による。)

(四) 通院交通費 一二万三七六〇円

昭和五六年三月一一日から昭和五六年七月三一日まで一一九日、和歌山バス(川永団地―市駅―三木町)片道料金五二〇円、一往復一〇四〇円

(五) 休業損害 一三〇万三五〇〇円

原告は、昭和五五年八月一九日から昭和五六年七月一八日までの間、休業を余儀なくされ、一か月一一万八五〇〇円の割合による収入一三〇万三五〇〇円を得ることができなかつた。

(六) 後遺症による逸失利益 五二二万七七二七円

原告には、前記治療の結果、自動車損害賠償保障法施行令第二条別表に定める第一〇級に該当する後遺障害が残つた。

原告は、本件事故当時、年収一四二万二〇〇〇円を得ていたが、右後遺障害による労働能力喪失率は二七パーセントであり、四七歳から六七歳まで二〇年間に右労働能力喪失による逸失利益の本件事故時における現価は、五二二万七七二七円である。

1,422,000×0.27×13.616

(七) 入、通院等慰藉料 二一五万円

(八) 後遺症慰藉料 三〇〇万円

(九) 被害車両修理代 一万八〇〇〇円

(一〇) 弁護士費用 八〇万円

4  以上の損害合計一三五九万五二一七円に対し、原告は、自動車損害賠償責任保険金九六万二六〇〇円を受給し、被告から八万三〇〇〇円の支払を受けた。

5  よつて、原告は、被告に対し、右損害金残額一二五四万九六一七円及びこれから弁護士費用を除く内金一一七四万九六一七円に対する本件事故の日である昭和五五年八月一九日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実中、被害車両の転倒原因は争う、原告の受傷の内容は、不知、その余の事実は認める。

2  同2、3の各事実は争う。

3  同4の事実中、損害填補の事実は認める。

三  抗弁

本件事故は、原告の重大な過失によつて惹起されたものであり、過失相殺するべきである。

すなわち、原告は、一人乗りしか許されていない被害車両に満二歳二〇日の子供を乗せ、しかも椅子等何らとりつけられていない前部に子供を立たせて被害車両のハンドルを持たせ、自らはその両足を単車のステツプに固定せず浮かせた状態で走行していたもので、加害車両が被害車両を追い越しにかかり併進状態となつた際、子供の安全を守ることに全神経を集中してしまい、ハンドル操作を誤つて加害車両の側へふらついたことが、本件事故の主たる原因である。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実は争う。

第三証拠

本件記録中、書証、証人等各目録記載のとおりである。

理由

一  原告が、昭和五五年八月一九日午後六時頃、被害車両を運転し、和歌山市有本六一〇番地先道路上を東進中、後方から追い付いた被告の運転する加害車両が追い越しざま、被害車両もろとも転倒し、受傷したことは、当事者間に争いがない。

ところで、右事実に成立に争いのない甲第二号証の三・八・九・一一・一二、乙第六号証、第一〇ないし第一二号証、原、被告の各本人尋問の結果(ただし、後記措信しない部分を除く。)を総合すると、次の事実が認められる。

1  本件事故現場は、県道有功天王線(幅員六メートル、アスフアルト舗装、中央線あり。)路上で、最高制限速度時速四〇キロメートル、追い越しのための右側部分はみだし禁止区域で、前後の見通しの良いところである。

2  被告は、本件事故当時、加害車両を運転して本件事故現場の手前一九・八メートル付近を時速約三五キロメートルで東進中、道路左端を徐行しながら先行する被害車両に七・四メートルに接近してこれを追い越すべく右にハンドルを切り、一四・八メートル前進したところで、被害車両の右側方間隔を〇・五メートル位に保持しながら追い越しにかかり、被害車両と並進して間もなく、加害車両の左側サイドバンバーを被害車両に接触させ、本件事故を生ぜしめた。

3  他方、原告は、本件事故当時、被害車両の座席の前のステツプに孫の柏木雅光(当二歳)を立たせ、ハンドルを両手で握らせて乗車させ、自らの両足は地面をするようにして道路左側端から一メートル以内のところを時速一五ないし二〇キロメートル位で東進中、後続車である加害車両の接近に気付き後方に振り向きざまハンドルをふらつかせ、被害車両のバツクミラーを加害車両の左側サイドバンバーに接触させたため、本件事故を発生するに至らしめた。

以上の事実が認められ、原告本人尋問の結果中右認定に抵触する供述部分は、前掲その余の各証拠に対比してにわかに措信することができず、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、被告は、被害車両を追い越すにあたり、その動静に注視し、右側に十分な間隔を保つて追い越すべき注意義務があるのにこれを怠り、その直近右側を追い越そうとした過失により本件事故を惹起したものであるから、民法七〇九条により本件事故によつて原告が被つた損害を賠償すべき責任があるといわねばならないが、原告も、加害車両の追い越しを妨害してはならず、安全な速度と方法で進行しなければならない注意義務があるにもかかわらずこれを怠り、ハンドル操作を誤つて被害車両をふらつかせて加害車両に接近したことによつて本件事故を招来させたものというべく、原告の過失も本件事故発生の一因をなしていたことが是認できる。

二  そこで、原告が本件事故によつて被つた損害につき検討する。

成立に争いのない甲第二号証の五・七、第三、四号証の各一・二、第八号証、乙第一五号証、原告本人尋問の結果によれば、原告は、本件事故により第一二胸椎圧迫骨折、右上腕、右前腕及び右頬部挫創、左拇指末節部、右小指挫傷、頭部打撲、骨盤挫傷の傷害を受け、中村整形外科・外科病院において、昭和五五年八月一九日から昭和五六年三月一〇日まで二〇四日間入院、同月一一日から同年一一月二六日まで(実治療日数一五三日)通院して治療を受け、症状固定したが、第一二胸椎棘突起はわずかに後方に突出し、胸腰椎移行部に頑固な神経痛様疼痛残存し、両大腿にしびれ感、右下腿の放散痛、右側頸部から上肢にかけてしびれ感及び神経痛様疼痛があり、尿をもらすとの後遺障害が残り、右後遺障害は、自動車損害賠償保険金の査定にあたつて自動車損害賠償保障法施行令第二条の別表に定める第一〇級に該当するものと認定されたことが認められ、他に右認定をくつがえすに足りる証拠はない。

1  治療費 六〇万九二三〇円

前掲甲第四号証の一・二、乙第一五号証によると、原告は、中村整形外科・外科病院に対し治療費六〇万九二三〇円を支払つたことが認められる。

2  付添費 一五万九〇〇〇円

前掲甲第三号証の一、原告本人尋問の結果によれば、前記入院期間中昭和五五年八月一九日から同年一〇月一〇日までの五三日間、原告の次女美紀が原告に付添看護したことが認められるところ、同人の付添看護料は、一日当り三〇〇〇円をもつて相当と認めるから、原告主張の付添費一五万九〇〇〇円はこれを是認できる。

3  入院雑費 二〇万四〇〇〇円

原告本人尋問の結果及びこれにより成立を認める甲第七号証並びに弁論の全趣旨によれば、原告が、前記入院期間中一日一〇〇〇円の割合による雑費、合計二〇万四〇〇〇円を下らない支出を余儀なくされたことが認められる。

4  通院交通費 一二万三七六〇円

原告本人尋問の結果によると、原告は、前記入院期間中、一一九日、一日一往復一〇四〇円の割合による交通費、合計一二万三七六〇円を支弁したことが認められる。

5  休業損害 一三〇万三五〇〇円

原告本人尋問の結果及びこれにより成立を認める甲第五号証の一ないし三、第七号証によれば、原告は、本件事故当時、食堂レジー係等として勤務し、月額平均一一万八五〇〇円を下らない給与の支給を受けていたが、昭和五五年八月一九日から昭和五六年七月一八日まで欠勤し、その間原告主張の給与総額一三〇万三五〇〇円の支給を受けなかつたことが認められる。

6  後遺症による逸失利益 五〇四万九三八三円

原告は、今後同月一九日(満四七歳)から六七歳まで二〇年間就労が可能であるが、前記後遺障害のためその労働能力の喪失率は二七パーセントと認めるのを相当とするので、原告の右期間内における前記収入(年収一四二万二〇〇〇円)からホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して、本件事故当時における原告の逸失利益の現価を算出すると、五〇四万九三八三円となる。

1,422,000×0.27×(14.103872-0.952380)

7 慰藉料 五〇〇万円

前記認定にかかる本件傷害の部位・程度、入・通院期間、後遺症の程度、原告の年齢、職業等諸般の事情(ただし、原告の過失を除く。)を考慮すると、原告に対する慰藉料は、入・通院期間中が二〇〇万円、後遺症に対して三〇〇万円、合計五〇〇万円とするのが相当である。

8 被害車両修理代 一万八〇〇〇円

原告本人尋問の結果によると、原告は、本件事故により被害車両が破損し、その修理代として一万八〇〇〇円を支弁したことが認められる。

三  以上により、原告が本件事故によつて被つた損害は、一二四六万六八七三円となるところ、前記一認定のとおり本件事故は、原、被告双方の各過失によつて生じたものというべく、その過失割合は、右認定にかかる事情を勘案すると、原告四割、被告六割とするのを相当とする。したがつて、被告は、原告に対し右認定の損害金の六割にあたる七四八万〇一二三円を賠償すべき義務がある。

四  然るところ、原告が、自動車損害賠償責任保険金九六万二六〇〇円を受給し、被告から八万三〇〇〇円の支払を受けたことは、争いがないのであるから、被告が原告に対し支払うべき損害金残額は六四三万四五二三円となる。

五  なお、原告が本件訴訟の提起、追行を原告訴訟代理人に委任していることは本件記録上明らかであるところ、本件事案の内容、請求認容額その他本訴に顕れた一切の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係にある損害として被告に負担させるべき弁護士費用として六四万円と認めるのが相当である。

六  よつて、原告の本訴請求は、被告に対し損害金合計七〇七万四五二三円及びこれから弁護士費用を除いた六四三万四五二三円に対する本件事故の日の翌日である昭和五五年八月二〇日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるのでこれを認容し、その余の請求は失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 鐘尾彰文)

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